ブラウザ戦争とは、1990年度後半に起こった Netscape Navigator (以下Netscape) 対 Internet Explorer (以下IE) の戦い(第一次ブラウザ戦争)と、2000年中盤以降の IE と Firefox, Chrome, Opera, Safariといった連合軍のシェア争い(第二次ブラウザ戦争)を指す。第二次ブラウザ戦争は2011年現在なお継続中であり、シェア全体の6割弱を握るIEに対し、他のブラウザが追撃する形となっている。
Windows95が登場する以前はLynx,Mosaic,Netscapeといったブラウザが普及していた。当時のhtmlは今にして思えば余りにも単純であったが、Netscapeは独自の機能を多数搭載し、より高度な記述を可能とした。fontタグなどもそういった中で生まれた機能である(つまりそれ以前はフォントの大きさや色すら変えられなかった)。これらの機能は非常に重宝され、Netscapeは事実上の標準ブラウザとなった。
第一次ブラウザ戦争は、Windows95の普及と同時に始まったと言って良い。圧倒的なシェアを誇ったNetscapeに対し、IEはWindowsに最初からインストールすることで順調にシェアを伸ばしてゆく。一方NetscapeはIEと差別化するためということもあり、さらなる独自機能の追加を行っていった。fontタグなどIEでも対応した機能はあったものの、両者に完全な互換性は実現されず、「IEに合わせてページを作るとNetscapeでレイアウトが崩れる」「Netscapeに合わせて作るとIEで崩れる」という規格争いが発生する。こうした状況下では両者が並立することはなく、どちらか一方が消えることになる。結局、生き残ったのはWindowsにバンドルされたIEだった。2000年にはIEがほぼ全てのシェアを握り、第一次ブラウザ戦争は終結する。
ここから先しばらくは、IEの天下が続く。ブラウザ戦争を制してしばらくした後、MicrosoftはIE6をリリースする。WindowsXPと同時期のリリースであり、次のIE7がVistaと同時期であることを考えるとIE6はXPとほぼ一心同体だと思って良い。本来1、2年程度で新ブラウザがリリースされていたのに対し、IE6は「次の後継ブラウザがなかなか出ない」状況だったと言える。
当時のIEは、Netscapeとはまた別の方向で独自規格を実装していた。これは今に始まったことではないが、html規格を策定するw3cという団体はhtmlの派手な機能追加に一切否定的であり、webの実情と合わなくなっていたことが原因である。IEがシェアのほぼ全てを握っていたことで制作側としては「IEで正しく表示できること」が最優先となり、w3cの規定する本来のhtml規格に沿っているかは重要視されなくなっていた。それは徐々に「IE6で表示されさえすればなんでもいい」という風潮に変わっていく。ひどい話だが、IE6のバグを逆手にとって表示させるようなページすら登場してしまう状態だった。そういったページが増えてしまうと「バグフィックス」するとページが崩れるというおかしなことが起こる。こうした理由もあって、IE7が登場した後もIE6を手放せないという状態が長く続いた。事実上、IEのバージョン間で規格争いが生じてしまったことになる。
また、Microsoftとしてはそろそろ廃止したい独自機能も存在していた。ActiveXという機能がその代表で、制作側からすると便利ではあるがセキュリティが穴だらけという致命的な問題があった。IE7からはデフォルトでは無効化するなど徐々にフェードアウトさせたい意図が感じられるが、Vistaと共に登場したIE7自体があまり普及しなかったため、効果は薄かったと思われる。
こうしたIEのセキュリティ問題や、同じIEですらバージョン間で表示が異なることに不満を持つユーザー・製作者も数多く存在した。「そろそろActiveXはやめたいが・・・」「どのブラウザ(バージョン)に合わせてhtml-cssを書けばいいのかわからん ⇒ ブラウザが規格を守るべき」といった風潮が流れ始める。こうした中で登場したFirefoxはNetscapeベースであったが本来のhtml規格を重視した設計になっており、IE6より格段セキュアな設計ということで少しずつだが確実にシェアを拡大していった。
ちょうどその頃、Appleもmac標準のブラウザをIEから独自開発のSafariに舵を切り、軌道に乗ってきた所だった。macのシェア自体が10%前後であり、その多くがSafariを使うと考えると無視できない勢力になりつつあった。後にwindows用のSafariもリリースすることで、さらなるシェアの拡大に成功している。またOperaというブラウザもシェアは他より少ないながら、地道に改良を加えていくことで優れたブラウザとして評価されつつあった。
こうしてIEをFirefox,Safari,Operaといったブラウザが追撃する第二次ブラウザ戦争が始まる。後にSafariのエンジンであるWebkitを用いたGoogleのChromeもこれに参戦する。どこまでを第二次ブラウザ戦争とするかはやや曖昧であり、Wikipediaによれば2006年以降は「ポスト第二次ブラウザ戦争」となっているが、未だシェアが激変していることを考えると、広義において2011年現在においてもブラウザ戦争は継続中と見るべきだろう。
長らくシェアを拡大していたFirefoxはここにきて停滞しており、GoogleのChromeが恐ろしい勢いで勢力拡大中である。一方でトップを走るIEは少しずつシェアを減少させているが、これは主にChromeに食われていると見ていいだろう。いずれにせよ、今後の動きがさらに楽しみである。